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照涌[てるわき]の大井戸
むかし、むかし。ある暑い日に、身なりのきたないお坊さんが田原の里を通りかかったところ、村の若い娘が声をかけました。
娘:「お坊さんどうされました。ずいぶんお疲れのようですね」
お坊さん:「じつは歩きどおしで、とてものどがかわいているのです」
娘:「それはおこまりでしょう。どうぞこれを飲んで、のどをうるおしてください」娘は村の井戸から水をくんでお坊さんに差し上げました。
お坊さん:「あ~おいしい。元気になりました。ありがとうございます」お坊さんは、お礼を言って立ち去りました。それから数日が過ぎ、あのお坊さんが、弘法大師というとても偉いお坊さんだったことがわかりました。
それ以降、不思議なことにこの井戸の水は、どんなに日が照って水不足の時でも枯れることがなく、冷たくおいしい水がコンコンと涌き続けました。村の娘がだれにでも親切にしていたおかげです。
村の人たちは、弘法大師様のおかげで水が枯れることのない井戸を「照涌の大井戸」と呼んで大切におまつりするようになりました。現在でも、この大井戸をおまつりする「水供養」が地域の熱意で続けられています。