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権現滝[ごんげんのたき]
奈良時代の有名なお坊さまに行基[ぎょうき]という方がいらっしゃいます。諸国をめぐって稲作のための溜池をつくったことで知られる高僧です。
ある夏のこと。当地では日照りが続き、村をあげて雨乞いしても一塊の雲も呼ぶことができませんでした。そこへ通りかかった行基は里人を救おうと滝壷に衣を敷き、「雨降らせたまえ」と祈願すると、これに感応した一龍王が、一老翁となって姿を現し、「我!民を救わん」と言うと忽ち消えて、あら不思議、一天にわかにかき曇り、たちまち大粒の雨が大地に降りそそぎ始めたのです。
この滝、これよりだれ言うとなく権現の滝と呼ばれるようになりました。
恵みの雨が上がって山のかなたを見晴らした里人は、頭と胴と尾の三つにちぎれて木にかかっている龍を見出したのでした。龍はわが身を裂いてまで民衆の苦しみを救ったのでしょうか。人々は頭の落ちたところに龍光寺[りゅうこうじ]、胴体のところに龍間寺[たつまでら]、尾のところに龍尾寺[りゅうびじ]を建て、竜王の霊を弔いました。